【ヒューマンエラーと錯覚】
労働災害の多くはヒューマンエラーが原因で発生していることは紛れもない事実です。
ヒューマンエラーの中でも、特に「錯覚」に注目して、その発生状況や対策について考えてみたいと思います。
錯覚とは
1)一般に、錯覚とは知覚の誤りということで、感覚、知覚、物事を認識する過程のどこかでエラーが生じることで起こると認識されていますが、間違いや誤りの類ではなく、注意深く観察しても、予備知識があっても生じてしまう人間の感覚、知覚特性によって作り出される現象もあります。
2)錯覚は、視覚だけでなく、聴覚、触覚、嗅覚など、さまざまな知覚に現れますが、直接災害につながることが知られている現象を下記に紹介します。
縦断勾配錯視
1)傾斜の違う上り坂や下り坂が連なった道路を走行すると、実際は上っているのに下り坂に見えたり、下っているのに上り坂に見えたりすることがあります。
2)下り坂を上り坂と知覚した場合には速度超過につながり、逆の場合は速度低下が生まれ、大渋滞の原因になることがよく知られています。
3)この錯視が起こる場所に注意を促す標識をみかけるようになりました、見かけたら注意が必要です。
視覚吸引作用
1)危ないものや、特に目を引くものがあると、そこに視線がくぎ付けになってしまい、無意識のうちに視線の先の対象物に近づいて行ってしまうという現象です。
2)大きいトラックに追従している時などに、この現象によって追突事故を起こしやすくなります。
溶け込み現象
1)日差しの強い日中に暗いトンネルに入るときや、日没直後の時間帯などに、黒っぽい車が周囲の暗さと同化してしまう現象です。
2)前方の車を認識するのが遅れて、追突事故の原因になります、十分な車間距離が大切です。
蒸発現象
1)急に明るい場所に出た時は、特に白やシルバーの車が見えにくくなってしまいます。
2)溶け込み現象と同様に追突事故の原因になります。
3)トンネルを出る際など、スピードを落として明るさに目をならすことが必要となります。
追従静止視界
1)前方の車に追従して走っていると、自分の車との双方がが止まっているような感覚に陥ってしまいます。
2)前者がスピードを上げても、同じ車間距のまま無意識に追従を続けてしまい前車のブレーキに対応できず追突するという現象です。
3)特に、トンネル内などでは、車間距離とスピードメーターをこまめに確認することが大切です。
コリジョンコース現象
1)見通しのよい交差点でも、出会い頭に激しく衝突するという事故が起きています。
2)自分の車と交差する道を走る車が、そのまま進むと衝突するというタイミングで走っている場合、お互いに相手の車を認識しにくいという現象です。
3)見通しのよい交差点でもスピードを緩めて左右を確認することが必要です。
これらの例は、交通事故を引き起こす錯覚としてよく知られたものですが、錯覚から引き起こされる災害は、交通事故だけではありません。注意しても訓練をしても避けられる錯覚することを自覚し、どんな錯覚が起こるのかを学ぶことが、災害の防止につながると思います。
見ているようで見ていない、「うっかり」「考えなかった」「想像もしなかった」など、人に関する災害事故は減りません。常に錯覚は人である限りなくなりません。
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